胡蝶の夢:更新情報『TO YAMATO』 01

2010/12/21 19:00

胡蝶の夢~夢の覚え書 を更新します。
宇宙図書館の「BOOKFAIRno.5 Xmas&NewYear petit特集」に参加しています。

『TO YAMATO』
ヤマト時代になる前の、真田志郎を中心とした物語です。
相変わらずオリジナルキャラクター満載ですのでご注意ください。

今回準備不足で、しばらくblog連載という形にしますので、どうぞお付き合いいただければ幸いです。


 序 章 : この丘の向こうに   (1)←
 第1章 : めぐり会い       (1)(2)
 第2章 : 夢はかなたへ     (1)(2)(3)(4)
 外 伝 : 星下之宴       (既出) 【以下未定】




      序  章  - この丘の向こうに -

(武士のお題:no.50「隠密拝命」)

 「全艦発進準備」
 艦長の指示が下された。

「波動エンジン起動開始」
「機関部門、配置完了」
「全通信回路オープン。送受信状態、良好です」
「レーダーシステム、異常なし」
「射撃管制システム、異常なし」
「艦内全機構、オールグリーン。全て異常なし」
「航法システム異常なし」
 次々と報告が上がる。
「発進準備、全て完了。ロック上昇」
「補助エンジン、始動!」
「補助エンジン、動力接続」
「動力接続、スイッチ・オン!」
「続いて第1フライホイール、第2フライホイール、始動10秒前」
「第1フライホイール接続!」
「第2フライホイール接続!」
「ガントリーロック解除」

 「ヤマト、発進!!」


              ☆  ☆


 西暦2220年、地球滅亡まであと3か月を残し、ヤマトは復活を果たした。
 古代進を艦長に戴き、新たな乗組員と共に。
 氷解を砕き発進したヤマトは、攻撃を受けつつも第二次船団を守り抜き、3億の人類をアマールへと送り届け、帰還した。そして、今また最後の船団と共に、地球に別れを告げようとしている。
 進むべき空は、厚い雲に覆われていた。
 まるで、この星の未来を暗示するかのように。
 故郷を失った地球人類に如何なる未来が待っているのか、誰も知らない。

 だが。
 空を見上げる男の眼窩から、光は失われてはいなかった。
 
  かつての発進の時も、そうではなかったか。
  ヤマトの行く手は、黒い雲に遮られ。
  命運は定かでなく。
  それをも切り裂き突き進むのは、乗組員たちの決意によるもの。
  「地球を救うため」に。
  ただそれだけを胸に刻み付け。
  ヤマトは使命を果たしてきた。

 地球連邦宇宙科学局長官・真田志郎は、独り佇む。
 英雄の丘に立つその姿に、影りはない。


 移動性ブラックホールが太陽系に接近。
 その報を受けて、早数年が過ぎる。打てる手だては、全て尽くした。
 今、3億の人類を乗せ、最後の船団はこの星を後にしようとしている。

 真田は、この惑星を救うために、あらゆる可能性を検討してきた。
 だが、最終的に得た結論は“全人類の移住”。
 この惑星を救うことはできない。
 移住地を探し出し、受け入れを交渉した。移民局を組織し、移民船団を造り上げた。
 そして。

 ヤマトの復活。

 それは、最強の護衛艦隊であり。
 人類の希望、だ。
 ヤマト、という名に込められた願いは、いつの時代であろうと変わらなかった。

 古代は。
 古代進はヤマト艦長として、必ずこの任務を全うするであろう。

 そう確信する真田の瞳に、柔らかい栗色の髪が映った。
 ギュッと目を閉じる。

 ユキ。

 かつての同僚であり、生死を共にした仲間の名を呼ぶ。
 あのふたりが、古代とユキが作り上げたもの。繋ごうとしたもの。そして、残そうとしたもの。
 ヤマトの古代進でもあり、ヤマトの森ユキでもありはしたが。
 ひとりの男として、女として。人間として。
 大切に作り上げた家庭を。

 「地球のために」
 大義の前に、捨てさせた。

 真田には詫びる言葉さえ持ち得ず、今はただ、ふたりの無事を祈ることしかできなかった。



 「バカね」
 妻が笑う。
 「バカね、志郎。思う通りにすればいいのよ。貴方の人生は、貴方のものよ?」
 妻はよく真田のことを「バカね」と言って笑った。
 出逢ったときから、逝ってしまうその時まで。
 
 ――キミだけがそう言った。

  「白いドレスも、誓いの言葉もいらない。揃いの指輪も欲しくない。
  ただ。
  貴方が生きて笑ってくれれば、それでいい」

 朴念仁と呼ばれ、職務を最優先させて生きていた。
 キミは笑って、そんな俺の帰る場所を守ってくれた。
 だから。
 キミが笑って暮らせる明日を守ろう、守りたいとそう願った。
 
 だが。
 そのキミももういない。
 ここにいるのは、この惑星(ほし)と最後を共にすることを望んだ者ばかりだ。

 この星に“明日”はもうない。
 “明日への希望”はヤマトと共に旅立った。


 できることは全てやった。
 俺の得たものは既に繋いだ。

  技術も。
  知識も。
  志も。
  夢も。

 彼らはそれらを受け取り、旅立った。

 伝えるべきことは、全て伝えた。
 この魂のままに。


 真田はスッと背筋を正した。
 ポツリと雨粒が落ちてきた空を見上げる。口許には笑みさえ浮かべ。

 ――沖田艦長。古代が、ヤマトが行きます。

 雲を切り裂いて突き進む艦に、静かに敬礼を捧げた。


 「古代。ヤマトを頼んだぞ」
 満足げな真田の呟きは、激しくなってきた雨音に消された。



 「『これで肩の荷を降ろせるな』とも見えるね」
「――確かに、ね。『打てる手は全て尽くした。後は全てを古代に任せる。地球と最後をともにできるなら、俺は本望だ』みたいな?」

 唐突な声に驚き、だが、聞き慣れたそれに小さな笑みを浮かべ、真田は振り返った。
 30年を共に過ごした友がふたり、そこにいた。
「槇(しん)、藍澤(あいざわ)。お前たち――」

 名を呼ばれたふたりがひらひらと手を振って応える。
「――何て事、志郎が考えるわけないよね」
 肩を竦めながら、男が笑う。出逢った時の人懐こい笑顔のままに。
「このあたしたちをどうやって誤魔化そうっていうのかしら」
 黒目がちの大きな瞳で見上げる人形のような姿は、18の時からさほど変わっていない。
 ふたりが、真田を見つめる。

 フッと、笑いが浮かんだ。
 言い訳は何もいらないのだろう。誤魔化す必要もない。
 島次郎にさえ明かさなかった言葉を、真田は口に上らせる。
「まだ、何ができるのかわからない。可能性は限りなく低い。だが、ゼロではない。
 武器は、俺自身――いや。俺たち、そのもの。それだけだ」
 ふたりが共に、グッと顔を引き締め、そして、にやりとした。
「「了解、チーフ!」」

 行くぞ、と真田が目を走らせる。
 ふたりがそれに続く。

 戦いは、まだ、終わってはいない。
 俺たちの戦いは、これからだ。
 あのブラックホールの向こうには何があるのか。
 どんな世界であろうと。
 喩え、何が待ち受けていようとも。
 決して諦めない。
 運命に身を任せたりはしない。
 この命、ある限り――!

 英雄の丘に、3人の姿は消えた。
 この星の明日を守るために――。

2010.12.20 written by pothos



『TO YAMATO』 >> 第1章(1)

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