胡蝶の夢:更新情報『TO YAMATO』 02

2010/12/22 19:00

胡蝶の夢~夢の覚え書 を更新します。
宇宙図書館の「BOOKFAIRno.5 Xmas&NewYear petit特集」に参加しています。

『TO YAMATO』
ヤマト時代になる前の、真田志郎を中心とした物語です。
相変わらずオリジナルキャラクター満載ですのでご注意ください。

今回準備不足で、しばらくblog連載という形にしますので、どうぞお付き合いいただければ幸いです。


 序 章 : この丘の向こうに   (1)
 第1章 : めぐり会い
       (1)←(2)
 第2章 : 夢はかなたへ     (1)(2)(3)(4)
 外 伝 : 星下之宴       (既出) 【以下未定】




      第 1 章  - めぐりあい -

(武士のお題:no.29「天泣」)


 =1=

 ひゅうと音を立てて西風が吹き抜けていった。

 2189年、初冬。
 今年は寒さが早い。本格的な冬将軍の到来も間近だ。
 街はクリスマス商戦待っただ中。赤と緑に彩られた大通りは賑わっていたが、この下町の裏通りは閑散とし、侘びしさが募った。
 通りを行く者はみな、襟を立て背を丸めながら足早に過ぎゆく。
 ただふたり。
 明らかに場違いな若者が、呑気そうに足を止めた。

 「あれ? 休みかな。約束は確かに今日なんだけどな」
 佐藤槇(さとうしん)は首を捻った。

 仔犬を連想させる薄茶色の瞳が、きょろりと動く。幼さを残した顔の下には、若者らしい、だが少々細身の身体があった。高校の制服を着ている。白いボタンダウンのシャツに紺のブレザーを羽織り、ズボンはきっちりセンタープレス。

「――本当にここなのか? 槇」
 連れの若者が訝しげに辺りを見やる。名を真田志郎といった。『稀代の怪物』と評され、地球史に名を残すことになる偉大な男も、いまだ18歳の青年に過ぎない。
 落ち窪んだ眼窩から、黒い眼がぎょろりと光った。長身であるだけでなく、がっしりとした体躯をしている。隣の友人より頭半分ほど大きい。黒い学ランについた襟章が、この国の最高学府に所属する者であることを指し示している。張り出した額が、知的さを演出していた。

 ふたり共に、繁華街の裏通りの更に入り込んだ路地というこの場に、その姿は馴染まない。通りを行く人間が、ちらと、或いはあからさまに視線を投げて寄越した。

 「うん。場所は間違いないんだけどね」
 見上げた先には、薄汚れた看板があった。長の歳月、風雨の洗礼を受けてきた古木に、僅かながら文字を認めることができる。『藍刻堂』と読めた。どうやら時計店であるようだ。もっとも、その薄くなった文字からは、磨きこまれた老舗の貫禄というよりも、うらぶれてしまい、どうにか店を開けるのがやっと、と云う風情が覗えるばかりだが。
 看板の下にある扉は閉まっていた。『閉店中』とさえ、表示されていない。
 「髭先生のところかな?」
 ひょいと、体を動かした。
 槇にはこういう迂闊なところが、少しばかりあった。
 通行人と接触し、続いて、ガシャン、と陶器の割れる音が路地に響いた。


 「てめえっ。何しやがるっ」

 驚いた二人が振り返る。
 まだ若い男が鬼のような形相をしていた。
 チイッと大きな舌打ちをし、しゃがみ込み、地面に落ちた風呂敷包みを解く。幾つかの破片と化した、かつては壺であったモノが姿を現す。
 男は再び、舌打ちをした。

 「す、すみませんっ」
 真っ青になった槇が慌てて頭を下げるが、男の表情から怒りは消えない。
「一体どうしてくれんだよ」
 憎憎しげに言い放ち、だが、頭を下げる槇の爪先から頭のてっぺんまでを舐めるように見ると、口の端を歪ませ、にやりとした。
 男が身に付けているのは、紫色の派手な柄のシャツにヨレヨレのパンツ。ボタンを外したシャツの襟元に金の鎖が見え隠れする。

「す、すみません。あの、」
 じろりと槇を一瞥した男が立ち上がる。
「これはなあ、大事なお人へのお届け物なんだぜ。どこにでもある代物とは、ちょいと違うんだ。これしかねえってえ品物なんだよ。ええっ? いってえ、どうしてくれんだいっ」
「そ、そんな大切な…あ、あの。僕、弁償を…っ」
 蒼白な顔をした槇が最後まで言い終える前に、真田が動いた。

「失礼」
 片膝を着くと、割れた陶器の欠片を2、3片、手に取った。
「勝手に触るんじゃあねえよっ。大事な代物なんだぜっ」
 男が怒鳴ったが、真田は気に掛ける風もない。
「たいしたものじゃないな」
 フッと笑い、立ち上がった。
「何だとっ」
 男が息巻いたが。
「量販店で売っている大量生産品だ」
 男は、チッとこれ見よがしに舌打ちをした。


 「――随分、舐めた真似をしてくれるじゃねえか」
 舌なめずりをするように、男がねめつけた。真田の落ち着き払ったでかい図体が、勘に触った。
「俺を誰だと思ってやがる」
 男の声が、低くなった。
「――知らんな」
「もう一遍言ってみやがれっ」
 辺りを構わない大声に、通りの人間が振り返ったが、この若者は驚きもしないらしい。

「ぶつかった事は謝罪する。こちらの落ち度だ。だが、それ以上の必要はない。何しろ、これは元々割れていたのだからな。欠片の縁に埃が付着している。昨日今日のものではないのは間違いない」
 ぎょろりとした眼球が、落ちくぼんだ眼窩の中で光った。
「てめえっ」
 男が叫ぶと同時に、その頬を目掛けて拳が飛んできたが、真田は難なくそれを避けた。カッとした男は目をつり上げ、更に、二度三度と繰り出したが、全く掠りもしない。

 チイッと大きな舌打ちを吐き出し、男はポケットへ手を差し込む。
「志郎!」
 槇が短く、友の名を呼んだ。
「大丈夫だ、槇」
 落ち着いた声で友をいなしたが、男の手には、ナイフが光っている。
「謝るんなら今のうちだぜ」
 薄笑いを浮かべた男に、真田は答えもしない。

 四度目の舌打ちの後。
 真田は、突進してくる男からひらりと身を躱(かわ)し様に、その腹に己れの拳を見舞った。ぐ、と男の口から呻きが漏れ、ふらりとしたものの踏みとどまり、ぺっと唾を吐いた。

「舐めやがって」
 薄笑いを消した男が、問答無用で駆け来る。
 二度目は躱しきれなかった。
 真田の腕に、深々とナイフが刺さった。男は、口の端を歪めにやりとすると、握ったナイフを倒そうとしたが。


 一瞬の後。
 男が訝しげな表情を作った。
 真田は顔色ひとつ変えることなく、男を見下ろしていた。


 「貴様らっ。店の前で何をやっていやがるっ」
 空を割るような大声が響くと、ナイフを握った男の身体がびくりと跳ねた。
 随分とガタイのいい男が立っている。一目で事態を察したようだ。
「お天道様に恥ずかしかねえのかい」
 静かな声が、低く不気味に響いた。
「ま、政之さん…」
 怯えた男の手から離れたナイフが地面に落ちると、カランと音を立てた。
「この馬鹿野郎がっ」
 ――問答無用。 
 男がひとり、地面に倒れ伏すのに、5秒とかからなかった。


 「何があったかおよそ察しはつくが、おめえさん、大丈夫か」
「志郎!」
 男が振り返るのと、槇が駆け寄るのとが同時だった。
「え、ええ。大丈夫です」
 真田の破れた上着の袖から、血が伝った。
「とにかく、医者だ」
 応急手当をしようと真田の腕を掴んだ政之が、ん、と眉をひそめた。
「おめえ」
 顔を上げた。
「ええ。ですから、大丈夫です」
 真田は表情ひとつ変えていなかった。



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