胡蝶の夢:更新情報 『TO YAMATO』 05

2010/12/25 19:00

胡蝶の夢~夢の覚え書 を更新します。
宇宙図書館の「BOOKFAIRno.5 Xmas&NewYear petit特集」に参加しています。

『TO YAMATO』
ヤマト時代になる前の、真田志郎を中心とした物語です。
相変わらずオリジナルキャラクター満載ですのでご注意ください。

今回準備不足で、しばらくblog連載という形にしますので、どうぞお付き合いいただければ幸いです。


 序 章 : この丘の向こうに  (1)
 第1章 : めぐり会い      (1)(2)
 第2章 : 夢はかなたへ
    (1)(2)←(3)(4)
 外 伝 : 星下之宴       (既出) 【以下未定】




      第 2 章  - 夢はかなたへ -

(武士のお題:no.26「異国憧憬」)


=3=

 研究室を飛び出した黎那は、科学棟さえも駆け抜け、裏庭に出た。
 小高い丘の上にあるこの訓練所は、こんもりとした裏庭から街を見下ろすことができる。その街に向かって黎那は大声で叫んだ。

「ばかっ! ばかっ! ばかあっ!!」
 はあはあと肩を揺らしていると、ぽろぽろと涙がこぼれた。

「ばかあっ!!」
 もう一度、叫んだ。
 夏期休暇中の昼下がりのこんな場所に、誰の姿も認めることはできず、黎那の声は青い空に吸い込まれてゆく。
 握りしめていた手を開くと、小さなチップがそこにあった。

「ばかっ」
 3度目は小さく呟き、設計図の記されたチップを握った右手を振り上げると、目の前の低木に向かって思い切り投げつけた。チップは音も立てずに、茂みの中へと落ちた。もうあれを見つけることは困難だろう。

 これで終わり。
 そう思った時だった。

「ってえな。いきなり罵詈雑言を浴びせられたと思ったら、今度は何だっていうんだ」
 髪を掻き上げながら、男がひとり茂みから姿を現した。
「古代…!」
 訓練学校同期生である、古代守の姿がそこにあった。


               ******

 「これ、どう?」
 差し出されたのは一本のタバコだった。

「古代、あんた、タバコなんて吸ってたの」
 21世紀初頭、煙草は社会の多くから排斥されたものの、人間はこの古い嗜好品と決別することはできなかった。禁煙の叫び声が沈静化すると共に徐々に喫煙人口は増していった。結局の処、現在は分煙を基本としつつも、喫煙自体は社会に容認されている。

 ほら、と投げ渡され、黎那は慌ててそれを受け取った。
「息を吸いながら、な。こう、」
 言われるままに火をつけて吸い込むと、煙が喉を刺激し、黎那は思い切り咳き込んだ。
「こ、古代っ! これっ」
 あっはっは、と古代は笑い、最初は誰でもそうなるもんさ、と続けた。慣れるとうまいぞ? というのを、もうこんなのいらない、と突き返した。
 古代の吐く煙が、ゆっくりと霧散してゆく。


 ジイジイと蝉の鳴き声が聞こえてきた。
「古代は、ここで何をしていたの?」
「昼寝」
 当然のように答えが返ってきた。
「この暑いのに? 熱中症になるよ」
 黎那は呆れたが、古代は笑うばかりだ。
「そういや、藍澤。お前、射撃上手いな。何かやっていたのか?」
 休暇前の夏期特別訓練での話だ。
「別に、何もしてない」
 へえ、と古代は感心した。
「身体能力が高いんだな」
「古代こそ。あたしなんて比べ物にならないくらい凄かったじゃない」
 後に『スペースイーグル』のふたつ名を持つようになるこの男は、既にその能力の片鱗を示していた。
「俺は日々鍛えているからな」
「うわ。自慢げ」
 黎那が形の良い眉を顰め、古代が笑った。


 「古代は帰省しないの?」
「そのうちな」
「家族が待っているんでしょ?」
「ん、まあ、そうなんだが。実家は煩くてな、いろいろ面倒なんだ。歳の離れた弟もいるし、俺が居ると何かと生活乱れるだろ」
「ケンカでもしてるの?」
「いや。そういうわけじゃないが、まあ、親戚とか、挨拶とか長居すると面倒だからな。ここは楽だ。タバコも吸えるしな」
 古代がにやりと笑うのにつられて、黎那も笑顔になった。
「古代はいつも楽しそうだね」
「まあな」
 蝉の鳴き声と、青い空。木陰に座っていると、案外涼しい風が頬を撫でた。
 いつもは賑やかな男が、今日は口数も少なく。
 ただ、ふたり腰を下ろして街を眺めていた。


 「あたしね」
 口を開いたのは黎那だった。

「ずっと知りたかったことがあるんだ」
 うん? と木に凭れた古代はまた眠たげだ。
「ねえ、古代。保存されたDNAで身体を再生して、そこに記憶を注入したら、もう一人の自分ができるのかな」
「――できません」
 眠たげに目を瞑ったまま、古代は答えた。
「どうして?」
「法律で禁止されているからです」
「古代」
「――結論がないんだ。考えても仕方ないだろ?」
 う、と黎那が口を尖らせた。

「じゃ、じゃあね。逆に、感情プログラムを重ねていったら、ロボットはどんどん人間に近づいていって、そして、最後は人間になるの?」
「だから、勘違いしないようにヒューマノイド型には規制があるんだろ? 俺はどこまでいってもロボットはロボットだと思う。感情プログラムだって、擬似感情を学習しているに過ぎない」
「それなら、脳だけになったら? 人工のボディに、脳だけ本物で。そうしたら、それでも“その人”なの? ねえ、それとも“別な人”なの? ねえ?」
「藍澤?」
「ねえ、古代。機械は機械でしかないの? どこまでいっても? そもそも、赤ちゃんが学習するのと、学習プログラムとの違いってどこ? ねえ、古代?」

「――藍澤!」
 強い口調で名を呼ばれて、黎那がハッとした。

「――ごめん。そんなこと古代にわかるわけないよね。ごめん」
 黎那がしょんぼりとした。
「いや、確かにそうだが、そう納得されても、どうも馬鹿だと言われているようにも思えるんだが」
「ごめん、そういう意味じゃないんだ」
 クスリと笑った黎那が話し始めた。


 生まれたばかりの黎那を残し、彼女の母親は事故に巻き込まれて亡くなってしまった。赤ん坊の黎那に、父親は生前に録音しておいた母親の子守唄を聞かせていた。
「ただ、それだけ事なんだけどね。ロボットと人間の違いって何だろうって、ずっと考えていたんだ。ねえ、古代。限りなく進化したら、ロボットと人間ってどこが違うんだろうね?」


 「それは神の領域なんじゃないか」
 唐突に声が掛けられ、驚いた二人が振り返ると、真田と槇が立っていた。



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