胡蝶の夢:更新情報 『TO YAMATO』 06

2010/12/26 19:00

胡蝶の夢~夢の覚え書 を更新します。
宇宙図書館の「BOOKFAIRno.5 Xmas&NewYear petit特集」に参加しています。

『TO YAMATO』
ヤマト時代になる前の、真田志郎を中心とした物語です。
相変わらずオリジナルキャラクター満載ですのでご注意ください。

今回準備不足で、しばらくblog連載という形にしますので、どうぞお付き合いいただければ幸いです。


 序 章 : この丘の向こうに  (1)
 第1章 : めぐり会い      (1)(2)
 第2章 : 夢はかなたへ
    (1)(2)(3)←(4)
 外 伝 : 星下之宴       (既出) 【以下未定】





      第 2 章  - 夢はかなたへ -

(武士のお題:no.26「異国憧憬」)


 「真田、槇…」
「俺の手足が義肢なのは、お前たちも知っての通りだが」
 ふたりの前に、真田がどさりと胡坐をかいて、腰を下ろした。古代と黎那を正面に相対する形となった。

「俺があの事故に遭ったのは、まだ10歳になる前だったからな。周りは義肢よりも、再生治療をすすめたよ。あの時再生治療を行っていたら、俺は今までメンテナンスに苦しむこともなく、以前と同じように暮らせたかもしれない。一見、何事も無かったかのようにな。

 では、姉は?
 姉のDNAからボディを作り出し、記憶を注入すれば姉は生き返るのか?

 それを、俺は姉だと呼べるか?

 あの時の俺には、それが姉だとは思えなかった。まあ、完全な記憶のコピーなんてものは存在しないからな。死ぬ直前と同じ人間になることはないんだが。だが、それでも俺はその可能性を考え、否定してしまった。

 誰しも持って生まれた命は、ひとつだけだ。
 死んだ人間は、決して生き返らない。

 そう考えたら、自分の四肢だけ再生して、なかったことにすることはできなかった」


 真田は握ったり開いたりする自分の手を見つめた。
「結局。ロボットが代用できるものもあれば、代用できないものもある。
 藍澤の親父さんは、おふくろさんの子守唄を機械で代用したわけじゃなく、それが、親父さんの愛情表現だったってことじゃないのか?」
「真田」
「うん。僕も志郎の意見に賛成だな。その子守唄を歌っているのが機械か、或いは、本人かなんて関係ないでしょ。そこに問題はないと思うよ。
 それよりも、ね。黎那。それ、今回の課題じゃなくて卒論にしたら? 今すぐ答えを出す必要はないんじゃない? 自分で納得できるまで、じっくり取り組んでみたら?」
「槇…。うん、そう、だよね」
 納得しかけた黎那を遮ったのは真田だった。

 「いや。今回の課題は、感情プログラム作成を中心にいこう。他を削れば、時間にも多少は余裕ができるはずだ。
 ヒューマノイド型でないロボットが感情を学習した時に、俺たち人間はそれをどこまで受け入れることができるのか、俺も興味はある。
 槇、どうだ?」
 呼ばれた槇は、両手を挙げて肩をすくめて見せた。
 仕方ないね。
 そう言っていた。


            *****


 真田は、大学でのことを思い出す。

 まだ15歳だった。
 事故の後、半年のリハビリを終え、その後国家によるエリート養成機関に復学した。そこでも優秀な成績を収め、飛び級を重ね最高学府へと入学する。
 まわりにいたのは、年長の人間ばかり。勿論、学問の上では年長であろうと対等であり、その点は皆同じ場所に立っていたため、苦労したことはなかったが。自己の能力を伸ばす為に、貪婪に研究を続けるその姿勢に疑問を持つようになった。

 何のために、研究を重ねるのか。

 知らなかったことを知る喜び、不可能を可能にする技術の獲得、或いは理論の証明。
 それらは、この上無い喜びではあったが、果たしてそれだけで良いのか。
 自分の研究が、実際の処、何に使われているのかも知らないままに、ただ、学問として追究してゆく。

 科学技術が多面性を持っていることは、知っているつもりだった。
 だが、己れの才を発揮する喜びに夢中になり、ふと、気付いたときには発見も技術も、己が手の届かない場所にあった。
 己れの迂闊さに臍を噛んだが、もう遅い。
 ギリギリと手が、足が痛んだ。

 俺は何の為に、研究してきたんだ!?

 己れの評価が高まるに連れ、増す罪悪感に苛まれた。
 姉の命を奪った自分が、こうして好きなことを好きなだけ研究している。
 だが、その研究は人間を幸せにしているのか?
 これで本当にいいのか?
 俺は、科学に使われているのではないのか?

 いくら考えても、納得できる答えは得られなかった。

 そして。
 悩みに悩んだ末、真田は軍へ入隊することを決意した。

 武器を開発するのは、己れの義務なのだ。
 姉の命を奪ったこの手には、相応しいと思えて。

 武器とは、守るためにあるのか。奪うためにあるのか。
 その答えを得るために、真田はここへきた。


             ******


 「ねえ、古代はどうして訓練学校(ここ)へ来たの?」
 唐突に、黎那が尋ねた。
「そりゃ、決まってるさ。軍(ここ)は一番宇宙(そら)に近いからな」
「――宇宙?」
「それなら、航空会社とかでもいいでしょ。わざわざ危険な場所へ来た理由は?」
 槇が目を丸くして、尋ねた。 

 チッチッと古代が指を一本、顔の前で振ってみせた。
「定期航路なんて、俺は興味ないさ。俺が行きたいのは、誰も行ったことのない宇宙だ」
「ええっ。じゃあ、開拓団にでも乗り込もうってことなの?」
 黎那が大きな目を、零れそうなほどに見開いた。

 にやり、としたのは槇だった。
「マゼランだって、ドレイクだって、そうだったじゃない。『誰も行ったことのない世界へ行ってみたい』でしょ?
 大航海時代と言われた頃だって、まさか、香辛料なんかの為に命を賭けて出かけたわけじゃないと思う。『まだ見ぬ世界』を見たくて、止むに止まれぬ気持ちがあったんだよね、きっと」

「ほう。お前、よく分かってるじゃないか!」
 古代の顔が生き生きと輝いた。

「――槇。俺はずっと、お前が軍になんて入ったことを疑問に思っていたんだが。その内、ゆっくり話そうと思っていた。まさか、お前も“そう”なのか?」
 沈着冷静な真田の驚いた顔というのも、珍しいかも知れない。

「何、その言い方。古代は良くって僕はダメだっていうの?」
「い、いや、そういうことじゃないが」
「そりゃね、志郎の家はいいよ。経済的に困ってないでしょ。でも、ね。ウチなんか航空系の学校の費用なんて、とてもじゃないけど、負担できないし。となれば、軍(ここ)が一番手っ取り早いじゃない。僕は自分で造った艦で、まだ誰も行ったことのない宇宙へ行く。そのために軍に入ったんだ」
 いつもの、おっとりとした槇ではなかった。夢に瞳をきらめかせた18歳の若者がここにいた。

「ならば、その艦を俺が指揮しよう。どうだ?」
 古代もまた同じ瞳をしていた。
「いいね、それ! うん、僕の艦を古代になら任せてもいい」

 明るく屈託のない性格で、誰からも好かれる槇であったが、人を見る目は持っていた。入学して半年、同期生の能力はおよそ把握している。

 はあ~と黎那が大きく息を吐き出した。
「これだから、男って。ホント莫迦ばっかりよね」
 だが、にやりとして。
「危なっかしくて仕方ないから、あたしのロボットを旅のお供につけてあげてもいいよ」
 答えるように、古代と槇が親指を立てた。

 「真田は作戦参謀って処だな」
 古代の発言で、真田へと視線が集まった。
「馬鹿野郎。勝手に話を決めるな! 誰が一緒に乗るなんて言った!?」

 一瞬の間があったが。

「航海士は一人、心当たりがある」
 何も聞こえなかったように、古代が言った。
「あ、わかった。茉莉花でしょ」
 黎那は茉莉花と寮が同室だった。航法科で一番の腕を持つと思われる、物静かな意志の強い女だ。
「ああ、彼女ならいいんじゃない? ついでに、幕之内を連れていけばおいしいご飯にありつけるよ」
「長旅にメシは重要だからな!」
 入学以来、“そういう目”で同期生を見ていた古代と槇であった。
「機関士は?」
「あのさ。何も同期で固める必要はないでしょ」
「おい、お前たち!! 俺の話も聞け!!」
 勿論、誰も真田の抗議など聞く耳は持っていなかった。



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