私宛のメッセージ

2015/05/25 17:13

「これは私に向けて書かれたメッセージである」という文章を時々目にする。
それを読んだ瞬間に感じるらしい。

もちろん、作者とは一面識もなく、
下手をすると故人だったりするのだけれど、
この人はどうしてこんなにも私の事をわかっているのだろう、
わかってくれるのだろう、
つまり、これは、私に向けて書かれたものなのだ。
というような感覚。

もちろん、それが事実ではないことは、たぶん百も承知の上で、そう感じているのだろう。
これは勘違いというか、妄想というか、思い込みというか。
そういう類いの間違った感情だろうか?
ワタシはそうではないと思う。

著者が執筆するに当たって、具体的に想定した読者ではないだろう。
けれど、公開された作品とは「読者」に向けて発信されたメッセージである。
であれば、それを受け取った読者が「これは私に向けて書かれたメッセージである」と感じることは全く間違ってなどいないのだ。

「これは私に向けて発信されたメッセージである」
それは、事実ではないかもしれない。
けれど、偉大なる真実ではないだろうか。
と、思うのだ。

先週、NHKのNEWSWEBで「三原順展」を明大図書館で開催中というニュースを取り上げていたのだけれど、
番組宛てのツイートの中に、「私だけの三原順でいて欲しい」というものがあった。
それを見て、思い出したのが、上記「私宛のメッセージ」だった。

作品から「私宛のメッセージ」を受け取った人というのは、とても幸福な人に違いない。
何故なら、人は共感し、されることに何よりも喜びを感じる生き物だから。

他の誰も知らなくていい。私だけが知っている。
そういう喜びがあるのも、わかる。
けれど、それはそれだけが知られていないからこそ意味を持つ。
自分の大部分が共感されていないと感じている時に、知られていないことに喜びは感じないと思う。
他が満たされているからこそ、欠けている部分が愛おしい。
そういうものだと思う。

自分が何もアピールしていないのに、「キミのこと、わかっているよ」というメッセージを受け取ったら。
それが、まさに自分の欲しいモノだったら。
こんなにも幸福なことはないんじゃないかと思う。

考えてみても、どうでも良いことに共感されても、それを自分宛のメッセージだと感じるだろうか?
自分にとってとても大切な、誰かにわかって欲しい、けれどわかってもらえない、
そんな内容だからこそ、特別なメッセージだと思うのだ。

ワタシは残念ながら、文章からそういうメッセージを受け取ったことは、まだ、ない。
どんなに面白く、どんなにワクワクし、そうだよそうだよ、と膝を打って読み進めた本であっても、
それが自分宛に書かれたメッセージだと思った事はない。

けれど、音楽でそれを感じた事がある。
今でも鮮明に思い出すことができる。
心配事があって、忙しくて、疲れていて、精神的にも体力的にも余裕がなくて、
大好きな人たちの演奏だけど、でも、きっと楽しむことはできないと思っていた。
それでも、誘ってくれた人に申し訳なくて、そればかりで出かけていった演奏会だった。

1曲目はア・カペラで、何事もなく終わる。
2曲目だった。
ピアノが最初の音を奏でた時に、ほろりと涙が零れた。
まるで、水を一杯に含んだスポンジを、その音が押しているように。
音が重なる毎に涙が溢れた。

うわ、ちょっと待って! そこ、押さないで! え、そこもダメ!
やめて、やめて、やめて!

本気で止めて欲しかった。
ようやく保っていた何かが崩れていくような恐怖を感じた。

でも。
コロコロと転がる音が、軽やかにスポンジを押していく。
止めることなどできるわけもない。
曲とは何の関係もないままに、ワタシはただひたすらに泣いていた。

人目も憚らずに泣くだけ泣いた(と言っても音楽ホールの中でのことだけど)
辛かったことも、悲しかったことも、頑張っていたこともわかってくれていて、
大丈夫だよ、わかってるよ、と言ってくれ、
最後は笑顔で励ましてくれた。

演奏会が終わってから、ワタシは無理することなく笑顔でサイン会の列に並んでいた。
(笑)

ワタシがIL DEVUの大ファンになったのは、この時からだ。

ワタシはあの演奏を、「私宛のメッセージ」だと受け取った。
そこに言葉はなかったけれど、ワタシは理解され、癒やされ、力を貰った。

彼らはワタシの存在なんて全く知らない。
けれど、ワタシが受け取ったメッセージは真実以外の何者でもない。

それ以来、演奏会に行くたびに、「あ、ワタシにむけて歌ってくれてる」という幸せな勘違いをワタシはし続けている。
とても、とても幸せな時間なのである。

テーマ : ひとりごとのようなもの - ジャンル : 日記

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